はじめに
パラフィン紙やグラシン紙といった紙をご存知でしょうか?本屋や古書好きな方であればどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。パラフィン紙・グラシン紙は、つるつるしていて半透明の薄白の紙で、よく品物を包む梱包材につかわれていたり、薬の包み紙として使われたりしている物になります。一般的には食品、薬品、雑貨、農芸用の梱包材・包み紙として使用される紙になります。
昔は小学校の授業などで糸電話の作成時にこの紙を使ったものがあったようで、「ぶーぶー紙」、「びーびー紙」とも呼ばれていたそうです。薄い紙であることから息を吹きかけると振動し「ぶー」とか「びー」とか音が聞こえるのがその名の由来になったとか。
グラシン紙については日本では昭和4年頃から生産が始まり、外国文献を頼りに王子製紙淀川工場で製造が開始されたようです。その当時から、書籍、菓子、煙草その他貴金属包装用として好評を得ておりました。
グラシン紙品質特性
ここにグラシン紙品質特性の引用を記します。
①透明であること
硝子様の透明性を特徴とした紙であるのでグラシン紙として最も重要な特性である。白斑が多く透明度の悪い製品は到底一級品としては失格である。
②強度が大きいこと
巻取りから小袋に製袋されることが多いので強度を必要とし、また飴のひねり包み紙等に用いられる時は特に引裂強さを要求される。
③塵がすくないこと
高級包装紙として使用されるので塵が目立つことは大きな難点となす。
④干皺がないこと
地合、乾燥の不同が干皺の原因になる。これは著しく外観を損なうので注意しなければならない。
⑤緊度が大きく厚薄がないこと
グラシン紙は蠟加工した上で包装紙として使用されることが多いが、この場合緊度の低いものはパラフィンの消費が多いので緊度を高く、かつ幅方向にわたって均質であることが望ましい。
⑥緻密で透気度が高いこと
ピンホールがあったり繊維間が有孔性であったりすると、片面蠟加工の場合反対側にパラフィンが浸み出て斑点になる。また食品の包装に使われる場合内容物の臭いが外に出たり、あるいは外の臭が内容物に移ることを防止し、またある程度耐水、耐脂性を有しなければならないので、そのためには質が緻密で透気度の高いことが必要である。
※紙パ技協誌 第16巻第137号573p
※透気度とは紙の一定面積を一定量の空気が一定圧力の下で通過するのにかかる時間のこと
パラフィン紙とグラシン紙の違い
普段の生活において紙のあれこれを考える場面に遭遇することは非常に稀ですので、そのような紙が一体どうしたのかと思われるかもしれません。しかし、日本独特のブックカバー文化と重なり、蔵書の保存方法にこれらの紙が使われる場面が多くあります。今回はそういった視点でお話していきたいと思います。
古本用語でも「元パラ」という表現があり、元々付いているパラフィン紙があるかないかを意味しています。日本の愛書家や蔵書家の方々にとっては結構重要な紙であったりするのです。
ところが、現状ではことこのパラフィン紙やグラシン紙ですら混同して呼ばれたりする場面が多々みられたりすることがあります。確かに見た目は似ていますし、手触りも似ています。しかしながら、その紙の製造過程や効果は微妙に異なっているため、まったく同じ物というわけにはいかないと言うべきでしょう。
パラフィン紙は正確には紙にパラフィンワックス(蠟)の塗布を施した製品であり、そうでない紙とは別物と言わざるを得ません。
実はグラシン紙品質特性⑤に「蠟加工した上で包装紙として使用されることが多い」とありますように、基本的にパラフィン紙はグラシン紙をベースにパラフィンワックスを塗布したものを指します。また、グラシン紙品質特性⑥にもありますように、パラフィン紙に使用されるグラシン紙は上質である必要があります。そのため通常のグラシン紙よりもパラフィン紙の方が高価でもあるのです。
このようにベースがグラシン紙であるために、いろいろ混同してしまうのは仕方がないことであると思います。グラシン紙やパラフィン紙を卸販売している方にもある意味混乱が起きているのも致し方ないのかもしれません。製造・販売過程でどのような品質であるのかを明記してほしいところです。
パラフィン紙やグラシン紙で本を包むのはなぜ?
本にはどうしても弱点があるもので、時と共に劣化する運命の代物であります。通常、こういった紙の劣化についてあれこれ対策を取ったりするのはおそらくある限られた場所、図書館とか司書という職業のお仕事として見られるのが一般的かもしれません。普段私たちの目の見えないところで、本を綺麗に保ったり、貴重な歴史的資料などを保管し、破損しないように管理する。そういった場面で紙の劣化などにも注意を払うというのなら、「なるほど」と納得できるように思います。
世の中にはそういった本の保存について、個人で所有している蔵書に気にかける方々もおられるのです。職業上のプロの方々のように特殊な専用の機械にかけるとか、特殊なスプレーをかけるというレベルにいかないまでも、個人で大切な愛書を大切に保管するという思いが強い方は少なくありません。中には手作りで本棚を作ったり、そこに本を綺麗に並べることや、本を買い集めることを趣味としている方は、なかなか外見上はわからないけれども、確かに存在しているのです。
余談ですが、本の弱点について詳しく書かれているものに『書物の敵』ウィリアム・ブレイズと『書物の敵』庄司浅水があります(庄司浅水著作集 書誌篇 第3巻に収録されています)。ご興味がありましたら是非読んでみてください。
庄司 浅水 著
講談社
講談社学術文庫
(庄司浅水著作集 書誌篇 第3巻に収録)
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次のお話へ
今後ここからお話していきたいことは、主にそういった個人で趣味として楽しんでいる方々に向けて、またはごく普通に本が好きだという方々に向けて、本の保護にどのような対策ができるのかを考察した内容になっております。またそれだけではなく、そういった対策が芽生えてきた日本の文化にも目を向け、寄り道をしながら話を進めていきたいと思います。
哲学堂書店 浦山幹生
⇒⇒蔵書家・愛書家へ続く (2019年9月19日更新)
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