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静かに分断する職場 なぜ、社員の心が離れていくのか 高橋克徳 ディスカヴァー携書

前偏


後編

本音で話し合い、連携して、目標を達成する。もっとパフォーマンスを発揮できる組織にする。そういった理想は理解できます。しかし、人間はもっとダークな側面が内在している動物でもあると思います。

この問題の背後には、メタ的な防衛行動の問題があるように思うのです。

分かりやすく言えば、ある程度の年齢を重ねると、ギバーとテイカーの存在に気が付くということです。

親身に近づいてき、操作するフレネミーやマニュピレーターの存在。「人の不幸は蜜の味」、シャーデンフロイデなる私たちのもつ自然な感情。マキャベリズム、サイコパシー、ナルシシズムが強く表れるダークトライアドの存在。

私たちは上のような存在に間違いなく出会っています。

そのような現実世界で「本音を話し合う」ことがどいうことか、いかに危険な綱を渡ることになっているか、多くの大人は直観で知っているといってもいいのではないでしょうか。

私が思うに、分断は必然なのではないかと思います。

私たちは上のように理想の組織を構築できるような進化を辿ってきてはいないようです。(なぜ悪人が上に立つのか: 人間社会の不都合な権力構造:ブライアン・クラース)

しかし、いかにその理想に近づくか、がこの本の魅力だと思います。様々な組織を見てきた知見から、未来を良くしようというエネルギーに充ち溢れています。相手を信じて、努力することはとても大切なことだと思います。お互いに影響し合い、自分が何者になりたいか前に向いて進み合う組織や環境というのは、大変に魅力的なことでしょう。

本書では、そういった取り組みの上で、認知科学でいうところのスキーマ、私たち各々がもつフィルターの存在を知らせてくれます。

人と向き合うとき、違和感がある。おかしいと思うときほど、自分のメガネ、認知フレームをいったん外して、今までの経験からくる解釈、思い込みを避けるように努力する必要があります。お互いにそうしたズレや誤解が生まれることを前提に、よりお互いの真意を理解してもらえるように丁寧に、背景や意図も含めて開示していかなければ、良いコミュニケーションは生まれないということです。

『静かに分断する職場』 高橋克徳 ディスカヴァー携書 p135

ゆえに、対話・話合いをもとに、関係性や間柄を大切にした、内から沸き起こるエネルギーに期待しているということでしょう。

しかし、どうすればいいのか、その答えはまだ見つかりません。

一方で、多くの専門家は口をそろえて言っています。
「彼ら(ダークトライアド)から距離をとれ。ターゲットにされるな、歯向かうな」と。

より良い活力ある組織や会社のために、「本音を話すように」とはグロテスクすぎるのかもしれません。

人口増加を前提とした資本主義と民主主義の仕組みの上で、明らかになりつつある私たちの特性。
短い動画ですが、益田先生のお話はわかりやすいと思います。

多くの人は自ら積極的に誰かに従属しようとする傾向がある。力強い立派なリーダーの取り巻きになり、庇護を受け、自分も大物になった気分を味わいたいと思っている。だが多くの人が「自由からの逃走」を試みるからといって、それが本人にとってよいことだとは言えない。企業にとっても、広く社会にとっても、である。
 よって結論は、こうなる。もしいま読者が、お互いに助け合う職場環境と部下思いのリーダーに恵まれているなら、その貴重な瞬間を存分に謳歌してほしい。だが、どこもそうだと思ってはいけないし、現在の状況がずっと続くと期待すべきでもない。世界は往々にして公正ではないのであり、そうわきまえることだ。そして、自分の身は自分で守り、自分の利益は自分で確保するほうがよい。

『悪いやつほど出世する』 ジェフリー・フェファ― 日本経済新聞出版社 p263

進化心理学の世界では、ロビン・ダンバーやブライアン・ヘアなど人類は友好性を養い、言語能力や知的能力と相俟って協調的コミュニケーション能力を最大化する方向に進化してきたと語りますが、組織や小集団の内部では「静かな分断」が起きているという。なんだか不思議で、ことがうまくいかないように障壁があるかのようです。人間は非常に複雑でよくわからない。進化のミスマッチが起こっているというお話もあります。次回は『なぜ悪人が上に立つのか: 人間社会の不都合な権力構造』ブライアン・クラークス 東洋経済新報社を取り上げたいと思います。

哲学堂書店 浦山幹生

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